第八話 手放すたびに、人は自由になっていく

手放すたびに、人は自由になっていく 整える人生
手放すたびに、人は自由になっていく

若い頃の私は、「持つこと」が安心につながると信じていた。

経験を持つこと。
肩書きを持つこと。
評価を持つこと。

そうしたものが増えていけば、
人生は安定していくのだと思っていた。

だから失うことは、どこか怖かった。

何かを手放すたびに、
自分の価値まで小さくなってしまうような気がしていた。

だが人生を歩き続けるうちに、
少しずつ気づきはじめたことがある。

手放すことは、
必ずしも失うことではないのかもしれない、と。

たとえば——
人と比べることをやめたとき、
心のざわめきが静かになった。

自分を証明しようとするのをやめたとき、
肩の力が抜けた。

勝ち負けにこだわらなくなったとき、
景色が広く見えるようになった。

振り返れば私は、
何かを得るたびに自由になったのではなく、
むしろ何かを降ろすたびに軽くなってきたように思う。

手放すとは、
削っていくことではない。

余計に握りしめていたものを、
静かに緩めていくことなのだろう。

若い頃は、
多くを持つことが強さだと思っていた。

だが今は少し違う。

本当の強さとは、
もう必要ではなくなったものを見極め、
そっと置いていけることなのかもしれない。

もちろん、手放すには勇気がいる。

慣れ親しんだ考え方。
長く支えにしてきた価値観。

それらを降ろすのは、簡単ではない。

それでも一度手放してみると、
そこに新しい余白が生まれる。

不思議なことに、
人生はその余白に静かに入り込んでくる。

風が通るように。

光が差し込むように。

最近は思う。

人生の後半とは、
何かを足していく時間というより、
余計なものを少しずつ降ろしていく時間なのではないか。

軽くなるほどに、
見えるものが増えていく。

急がなくてもいい。
飾らなくてもいい。

ただ、自分のままで立っていればいい。

これから先も、
きっといくつもの手放しがあるだろう。

それを寂しいとは思わない。

むしろそのたびに、
私は少し自由になっていくのだと思う。

どうやら人生とは、
多くを抱える旅ではなく、
本当に大切なものだけを残していく旅らしい。

まだ途中ではあるけれど——
最近の私は、その軽やかさを少しずつ感じはじめている。

手放すたびに、人は自由になっていく。

どうやらそれは、
失うことではなく、
自分に戻っていくことなのかもしれない。

自由とは、何かを手に入れたときではなく、もう握りしめなくていいと気づいたときに訪れるのかもしれない。

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