朝から、どこか落ち着かない空気が体の中に流れていた。
今日は応募した仕事の面接の日。
特別に飾ることもなく、ただ普通に答えてきた。
面接室を出ると、廊下には次の順番を待つ人が二人座っていた。
その横を通り過ぎるとき、少しだけ気まずい気持ちになった。
「終わったな」
外に出て深く息を吸う。
冷たい空気が肺に入ってきて、ようやく現実に戻った気がした。
点数をつけるなら、50点くらい。
悪くはないけれど、手応えがあるわけでもない。
そんな面接だった。
家に戻り、誰もいない部屋で思わず奇声を発した。
張り詰めていたものが、一気にほどけたのだろう。
人は緊張から解放されると、少しおかしな行動を取るものだ。
そして午後一時過ぎ。
一本の電話が鳴った。
面接内容の確認だろうかと思いながら出ると、
最後にさらりとこう告げられた。
「採用です。」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「私なんかでいいんですか?」
思わずそう返していた。
電話を切ったあともしばらく、現実味がなかった。
嬉しいはずなのに、「ほんとかな」と思っている自分がいる。
けれど真っ先に妻へ伝えると、
「早かったね、まじ?」という返信のあと、見たこともない数のスタンプが送られてきた。
ああ、よかったのだな。
私だけでなく、この人も安心したのだ。
そう思った。
振り返れば、昨年の九月に仕事を離れてから、
私はある試験に向けて必死に勉強していた。
正直に言えば、本当に大変だった。
時間も気力も削られ、
生活の重心がすべてそこにあった。
そして——落ちた。
あのときの衝撃は、言葉にできない。
目の前が少し暗くなるような感覚だった。
だからだろうか。
今日感じているのは、喜びよりも安心に近い。
もしかすると、あの不合格は人生のターニングポイントだったのかもしれない。
もし合格していたら、私は別の道に進んでいただろう。
その道が悪いとは思わない。
けれど今こうして立っている場所は、不思議なほどしっくり来ている。
人生はときどき、遠回りに見える道を用意する。
しかし後から振り返ると、
それが自分に合った方向へ進むための調整だったと気づくことがある。
まだ少しだけ、「ほんとかな」という気持ちは残っている。
けれどそれでいいのだと思う。
大きな安心は、ゆっくり体に馴染んでいくものだから。
今日は無理に何かをしない。
ただ、この静けさの中に身を置いてみようと思う。
気づけば呼吸が深くなっている。
ようやく、次の場所へ歩き出せそうだ。

