第十一話 整えた先で、人生は静かに広がっていく

静かな朝のひととき 人生後半の整え
静かな朝のひととき

相続登記を終えたあと、
暮らしの中に、これまでとは少し違う静けさが訪れた。

何か特別なことが起きたわけではない。
景色も変わらないし、朝はこれまでと同じようにやってくる。

それでも、心のどこかにあった見えない重みが、
そっと取り除かれたような感覚がある。

人生には、「やらなければならないこと」がいくつもある。
そしてその多くは、終わるまで気づかないかたちで、
静かに心を占めているものなのだと思う。

ひとつ終えるたびに、
人は少しだけ自由になる。

最近、ふと考えることがある。

これからの時間を、どんなふうに使っていこうか、と。

若い頃は、前へ進むことばかりを考えていた。
立ち止まらないことが大切だと思っていた。

けれど今は、少し違う。

急いでどこかへ向かうよりも、
自分にとって無理のない速さで歩いていきたい。

競う必要もなければ、
誰かと比べる理由もない。

ただ、自分が心地よいと感じる方向へ、
静かに進んでいけたらそれでいい。

不思議なもので、
暮らしを整えはじめると、
これまで見えなかったものが見えてくる。

本当に大切にしたいこと。
そばにあってほしい人。
守っていきたい時間。

それらは決して派手ではない。
けれど、人生を内側から支えてくれるものだ。

これから先、大きな目標を掲げることはないかもしれない。
だが、小さな願いはある。

穏やかに暮らしたい。
よく笑い、よく眠り、
季節の移ろいを感じながら日々を重ねていきたい。

そしてできることなら、
これまでよりも少しだけ軽やかに生きていきたいと思う。

人生は、何かを手に入れることで豊かになるのではなく、
背負っていたものを静かに降ろしたとき、
その本当の広がりを見せてくれるのかもしれない。

整えるとは、特別なことをすることではない。
自分のこれからに、そっと余白をつくることなのだろう。

まだ途中ではあるけれど、
いま私は、そんなふうに感じている。

未来は遠くにあるものではなく、
整えた今日の延長線上に、静かに続いている。

これからの人生もまた、
焦らず、無理をせず、
自分の歩幅で進んでいこうと思う。

整えた先に、ようやく見えてくるものがある。
どうやらそれは、
思っていたよりも穏やかな景色のようだ。

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