相続登記を終えたあと、
暮らしの中に、これまでとは少し違う静けさが訪れた。
何か特別なことが起きたわけではない。
景色も変わらないし、朝はこれまでと同じようにやってくる。
それでも、心のどこかにあった見えない重みが、
そっと取り除かれたような感覚がある。
人生には、「やらなければならないこと」がいくつもある。
そしてその多くは、終わるまで気づかないかたちで、
静かに心を占めているものなのだと思う。
ひとつ終えるたびに、
人は少しだけ自由になる。
最近、ふと考えることがある。
これからの時間を、どんなふうに使っていこうか、と。
若い頃は、前へ進むことばかりを考えていた。
立ち止まらないことが大切だと思っていた。
けれど今は、少し違う。
急いでどこかへ向かうよりも、
自分にとって無理のない速さで歩いていきたい。
競う必要もなければ、
誰かと比べる理由もない。
ただ、自分が心地よいと感じる方向へ、
静かに進んでいけたらそれでいい。
不思議なもので、
暮らしを整えはじめると、
これまで見えなかったものが見えてくる。
本当に大切にしたいこと。
そばにあってほしい人。
守っていきたい時間。
それらは決して派手ではない。
けれど、人生を内側から支えてくれるものだ。
これから先、大きな目標を掲げることはないかもしれない。
だが、小さな願いはある。
穏やかに暮らしたい。
よく笑い、よく眠り、
季節の移ろいを感じながら日々を重ねていきたい。
そしてできることなら、
これまでよりも少しだけ軽やかに生きていきたいと思う。
人生は、何かを手に入れることで豊かになるのではなく、
背負っていたものを静かに降ろしたとき、
その本当の広がりを見せてくれるのかもしれない。
整えるとは、特別なことをすることではない。
自分のこれからに、そっと余白をつくることなのだろう。
まだ途中ではあるけれど、
いま私は、そんなふうに感じている。
未来は遠くにあるものではなく、
整えた今日の延長線上に、静かに続いている。
これからの人生もまた、
焦らず、無理をせず、
自分の歩幅で進んでいこうと思う。
整えた先に、ようやく見えてくるものがある。
どうやらそれは、
思っていたよりも穏やかな景色のようだ。

