朝、少しだけ心が落ち着かなかった。
理由は些細なことかもしれないが、妻の機嫌が気になっていた。
長く一緒に暮らしていると、言葉にしなくても伝わる空気というものがある。
そんな朝だった。
気持ちはどこか定まらず、もしこのまま何もなければ、少し重たい一日になっていたかもしれない。
そんなとき、一通のメールが届いた。
ドメイン移管に関する連絡だった。
しばらく触れていなかった案件だったが、内容を確認し、管理画面を開き、手順を追っていく。
鍵を取得し、申請を進める。
ただそれだけの作業だったのだが、不思議と集中していた。
気がつくと、さっきまで心を占めていた小さなざわめきが、静かにほどけていた。
整う、というほど大げさではない。
けれど確かに、心が少しほぐれていた。
考えてみれば、こういう感覚は昔から知っている。
勉強をしていた頃もそうだった。
できるようになることよりも、理解していく過程そのものが楽しかった。
「ああ、そういう仕組みか」
「なるほど、ここでつながるのか」
そんなふうに腑に落ちる瞬間が好きだった。
年齢を重ねた今、若い頃のような速さはないのかもしれない。
それでも、理解することの喜びは変わらず残っている。
むしろ、静かに深くなっている気さえする。
ふと窓を見ると、冬の低い陽ざしが部屋に差し込んでいた。
私はこの光が好きだ。
強すぎず、ただ静かにそこにある光。
部屋の奥まで届き、空気の輪郭をやわらかく浮かび上がらせる。
朝はただ眺めていることが多い。
昼過ぎには、温かい飲み物を口にすることもある。
自分の部屋で、自分の机に向かい、
自然の光の中にいる。
これ以上の幸せはないのかもしれない、と思うことがある。
将来への不安が消えたわけではない。
暮らしていれば、心は揺れる。
けれど最近、こう思うようになった。
安心とは、不安がなくなることではないのだろう。
小さくても、心が戻ってこられる場所があること。
それが、暮らしを静かに整えていくのだと思う。
今日もまた、冬の光が部屋に入ってくる。
その光の中で、私は少しずつ整っていく。

